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「資本コストを上回る企業価値こそ本物」

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 東証が今年から「企業価値向上表彰」を始めた。第1回として大賞にユナイテッドアローズ、優秀賞にエーザイ、HOYA、丸紅、三菱商事が選ばれた。何がポイントなのか。選定基準を論じるのではなく、3月に催されたシンポジウムの中から注目すべき点をピックアップしてみた。

 選定委員長を務めた伊藤邦雄教授(一橋大学)は、多くの日本企業は真の企業価値経営をやってこなかったのではないか、と指摘する。日本企業はイノベーティブと言われながら低収益である。あまり儲かっていない。どうしてだろうか。

 中期計画の達成度をみても、ほとんどが達成できていない。実行力が欠如している、と資本市場はみている。長期的経営を志向しているといいながら、実は短期化しているのではないか。コーポレートガバナンスもうまくいっていない。CEOが長期的経営を実践するためには、長期投資家の目が必要であると指摘する。

 さらに、CEOと同時に、CFOをもっと鍛えていく必要があると強調する。外科の手術でいえば、CEOが執刀医で、CFOは麻酔科医の役割を担う。つまり、リスクに対する企業体力のバランスをみていく。

 HOYAは、資本コストを上回るSVA経営(シェアホールダーズ・バリュ-・アディッド)を展開している。その意味するところは、①緊張する経営、②情熱をもって働ける会社、③その時代に存在意義のある企業であるべし、という点にある。緊張する経営とは、コーポレートガバナンスがしっかりしており、絶えず見られ、求められる形を有しているという意味である。

 江間CFOは3つのキーワードを強調する。1つは株主と同じ船に乗ること。人は得てして傲慢になる。財務上自己資本というが、これは自分のものではない。株主に一度返して、もう一度出資してもらうと考える。当然、資本を出してくれた人にはコストがある。それが、このくらいは稼いでほしいという要求収益率、つまり資本コストである。そして、資本コスト以上稼いだ分が、本物の企業価値である。セイムボートと口で言っただけでは駄目で、江間氏は45歳で取締役になった時に、年収以上の額の自社株を買うようにアドバイスされた。

 2つ目は、国民の幸福に寄与すること。企業価値向上が国の豊かさにつながることが求められる。それは年金や保険を通して、国民にとっても良いこととなる。3つ目は、SVAのハードルは高いと覚悟。かつて、HOYAは経常利益経営をしていた。利益の絶対額を目標にしていた。しかし、93年度にROEが4%まで落ちた。そこで、94年度からROE経営に変えた。しかし、レバレッジを効かせれば、ROEは上がる。これはおかしいと考え、97年度よりSVA経営に転換した。

 SVA経営はハードルが高い。どうすればよいか。単に現状を前提に、オペレーショナルなコストを下げればよい、というだけでは上手くいかない。作戦の差が問われる。大きな成果を出せるかどうかは、戦略ギャップをいかに作るかが勝負である。ハードルが高いから、知恵が絞り出す必要がある。そこまで考えて手を打つならば、その後マーケットで起きることに驚かないで済む、と江間CFOは強調する。

 三菱商事は、経済的付加価値(EVA)をベースにしたMCVAを経営の基軸にしている。これは資本コストを明確に取り入れた企業価値経営で、2001年に導入した。

 そこでは4つのMを実践している。1つは、マネジメントのM。ビジネスモデル毎に適用する組織を分けた。2つ目は、メジャメントのM。各ビジネスモデルの最大損失を計量化し、それを負担する株主資本も明確にした。事業ユニットは株主資本を借りてくるのだから、資本コストがかかる。リスクを計量化して、リスクが高いと資本コストも上がるようにした。

 3つ目は、モティベーションのM。MCVAを徹底し、これが黒字なら報酬が出るようにした。4つ目は、マインドセットのM。PR、IRと同じようにERにも力を入れた。会社の広報(PR)、投資家向け対応(IR)と共に、従業員向けの説明(ER)を実行した。すでに12年も実行してきたので、全社員がMCVAについて説明できるようになっている。

 三菱商事は1997年のアジア危機を経験して、リスクマネジメント上、リスクの計量化が不可欠であると認識した。また、安定株主比率も下がってきたので、株主を意識せざるを得なくなった。時価会計の導入で、株主資本の範囲が企業の体力を反映すると認識した。そこで、新しいものさしを導入した。

 どうやって、事業の選択と集中を実践するか。最も役に立ったのは、エグジットルール(事業撤退ルール)であると、上田副社長は強調する。MCVAが3期赤字であったら、その事業は原則撤退となる。MCVAを行う事業単位を180ユニットに分けた。従来の部よりも、もっと細かく分けた、エグジットルールをベースに対話を続け、現在では120ユニットに減った。この間、ER を徹底した。トップがやる気をみせないと下は動かない、これによって、三菱商事のビジネスモデルは大きく作り変えられた。

 江間CFOは、グローバル競争の前線では、同一産業内企業間競争ではなく、産業間企業競争になると予見している。つまり、事業の構想力が成否を制する。上田副社長は日本の総合商社のビジネスモデルは世界にない。バランスのとれたポートフォーリオをいかに作るか、その経営力が要であるという。伊藤教授は、伊勢神宮の式年遷宮にみられる常若(とこわか)を比喩として用いる。変えることが持続につながり、常に若々しさを保つ。日本の企業も、ビジネスモデルを変えながら、いつも生き生きとして長期的に持続してほしいという。

 そのためには、次のビジネスモデルを構想する力と、それを実現する戦略が求められる。その基本となるのが、リスクアセットに対するリターンを明確に意識し、資本コストを上回る企業価値をあげていくことである。こういう視点で、企業価値経営を見抜いて行きたい。


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